2011/11/03

しなやかな手


F3P+Ai NoctNikkor 58mmF1.2S  neopan400

 

仕事仲間(女性)とメシを食いに行ったときのこと。ふと「手」の話になった。それも男の手。
彼女は男性の手の動きを見てセクシーさを感じると言う。
色々と自分のフェチズムについて語る彼女の話を聞いていて、ふと思い出したことがあった。

小学校から同じ町で過ごした友人。中学でもさほど仲良くはなく、高校も別々。
しかし高校を卒業して1年後くらいだったろうか、お互いバンドをやっていたこともあって
その頃からちょくちょく一緒に呑んだり遊んだりするようになった。
ルックスもそこそこ、服のセンスも良くなんでもそつなくこなす彼は常にモテる奴で、
まるで僕の正反対だったのだが、なんとなくウマがあった時期があったのだ。
その頃はじめた写真のこともかなりのことを彼に教わった。
ーというよりはそもそも写真そのものが彼の影響だったような気もする。

さて今も昔も18歳になったら車に乗るのが当たり前の田舎の町、
彼も僕も当然のように車を買い、乗っていたのだけど
あるときスピード違反で免停になった僕を彼が車に乗せてくれて買い物に出かけたことがあった。

そのときのことだ。車は赤のスカイラインだったと思う。ミッション車。
助手席に座った僕の目の端っこで、彼の手がシフトレバーをゆっくりと、しなやかに コクン、と動かしているのを見た。
なんだか軽く指でつまむように、けれどしっかりとつかんでいるのであろうその手。
クラッチを切り、力の入ってないかのような手首でギヤを入れていく。
けしてぼくはゲイではないし、そのケも全くないのだけれど
そのときその”手”を本当にセクシーだと思ったのだ。
しばらく横目でその手を見ていた。見とれていたといってもいい。
今でも覚えているそれはなんだか衝撃的な、まるでエロスに近い感覚だった。

彼とはその後数年一緒にバンドをやったり写真を撮りに行ったりしたけれど段々と疎遠になり
数年後 別の友人に聞いたら行方不明になってしまったという。
その行方不明の意味はいまだにわからない。
本当に失踪したのか、それとも友人達の間で誰も行方を知らないだけなのか。
ただ、もう会える気はしていない。

あれからときどき、シフトチェンジをするときに彼のマネをしたりした。
けれどきっとそれはすいぶんとまぬけな動きだったんだろうなあ。


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