土門拳記念館の中には仏像を撮った大きなプリントが並んでいて、しかもわりと間近に見られたように記憶している。
そういった仏教的な像にはなんの興味もなかったのだけど、それでもそのなめらかな陰影をずっとずっと眺めていた。
なにに惹かれたのもわからないまま、それでもなんだか行ったり来たりしてはまた同じ写真を眺め直したり。
ひょっとすると(後に知った)広島関連の写真なんかもあったのだろうがしかし覚えているのは仏像の写真ばかりだ。
そのときのインパクトがいま、モノクロ写真を好んで撮ったりすることにつながってるのもしれない。
とはいえ再び写真に興味を持って日常カメラを持ち出すようになるのはこれから10年以上経ってからの話なのだけど。
土門拳記念館を出た後は最上川の近くで写真を撮った。白鳥がたくさんいて、コートを着たオヤジも記念写真的に撮った。
肉親のそういった写真を撮るのが妙に気恥ずかしかったのを覚えている。でも、何年か経ってそのフィルムを見たとき
撮っておいて良かったと思った。
オヤジは土門拳記念館で写真集を3冊買っていて今でも実家に行くと時々それを眺めたりする。
それを見てるとあの白鳥のいる前で撮ったオヤジと土門拳の写真と列車から眺めていた真っ暗な海が
絡みついたように思い出されてくる。そんなヘンな記憶のつながり方もちょっと面白いのだ。
それにしてもオヤジと白鳥を撮った後、どの駅からどうやって岐阜まで帰ってきたのか、
あれから何度思い出そうとしても不思議と全く思い出せない。ひょっとすると帰りはずっと寝ていたのかもしれない。
土門拳博物館にはもう一度行きたいと思っている。
できれば冬に。そして願わくば奇跡的に晴れてもらってまた青空の下で鳥海山を見てみたい。