2015/03/06

カメのように歩みはのろく


M6TTL+Summicron 35mm F2/Fomapan200




信号もない道をひたすら北へと走った。道はとても単調だった。しかし決して運転がそうだというわけでもなかった。仲間のひとりが運転しているとき、後ろに車がずっとはりついて(僕らの車はずっと60キロ前後で走行していたのだがこの場所でのそれはとても遅いのだ)それをやりすごさせようと見晴らしの良い直線で彼が軽くブレーキをかけたときのことだ。ちょっと急なペダル操作だったかもしれない。あっというまに後輪がロックし、車はハーフスピンの状態になった。左へアタマをふったときに「ブレーキを離して!」と助手席から声を飛ばす。ブレーキを離すとすぐに車体は立て直しかけたが今度は右へとアタマをもたげる。頭でっかちな僕らの車はこうなるとなかなか収まりが付かないのだろう。とっさに見たのは対向車線だった。100mほど向こうに対向車が見えた。距離はある。だいじょうぶ、と思ったらその軽自動車も僕らの姿を見て慌てたのかハーフスピンを起こしはじめている。ミラーを見るとさっきまでべったりくっついていた後ろの車は距離を取っていた。「だいじょうぶ、おちついて!」と声をかけたとおもう。結局さらにもう一度左側へ小さくアタマを振った我らがキャンピングカーはそれでようやく落ち着きを取り戻し、また何ごともないようにまっすぐと走り出していた。対向して止まっていた軽自動車の中では驚いた顔をしたおじさんがこっちを凝視していた。
全員が心臓をバクバクさせていたが、それを表に出してはならないかのように「ちょっと驚いたね」「そうだね」くらいの会話をかわしただけで― そう、運転者を責めるようなことを言ってはならないと思うのと同時に、しかしそれは自らを落ち着かせるのにもきっと必死だったんだと思う。僕にしたってあれだけ瞬間的にまわりの状況を見て指示を出していたにもかかわらず、その後いつまでも手が震えていた。横転していたっておかしくなかったのだ。路面が凍っていたからスピンをしたが、凍っていたから横転せずにも済んだともいえる。
その後しばらくして運転を交替した。アクセルは前よりも踏めなくなり、僕らはノロノロとカメのようなスピードでそれでも単調な道を北へ北へと進んでいった。

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